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東京地方裁判所 平成8年(ワ)3676号 判決 1998年1月27日

原告

加藤マリア

被告

西田聡

ほか二名

主文

一  被告西田聡、同篠原佳子は、各自、原告に対し、金二八五万一七六九円、及びこれに対する平成六年七月一二日から各支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  被告同和火災海上保険株式会社は、原告に対し、原告の被告西田聡に対する判決が確定したときは、金二八五万一七六九円及びこれに対する平成六年七月一二日から各支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

三  原告のその余の請求をいずれも棄却する。

四  訴訟費用は、これを四分し、その三を原告の負担とし、その余は、被告らの負担とする。

五  この判決は、第一項に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求

一  被告西田聡(以下「被告西田」という。)、同篠原佳子(以下「被告篠原」という。)は、各自、原告に対し、一一九二万五三五五円、及びこれらに対する平成六年七月一二日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え(二一二七万六四四〇円の内金請求)。

二  被告同和火災海上保険株式会社(以下「被告同和火災」という。)は、原告に対し、原告の被告西田に対する右判決が確定したときは、金一一九二万五三五五円及びこれに対する平成六年七月一二日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

三  訴訟費用の被告らの負担及び仮執行宣言

第二事案の概要

一  本件は、同乗中の車両が事故に遭い、負傷した原告が、同乗車両及び相手方車両の運転者らに対し、損害賠償を請求した事案である。

二  争いのない事実及び証拠により容易に認定できる事実(以下「争いのない事実」等という。)

1  本件交通事故の発生

原告(一九五五年六月一九日生。甲一八の1)は、次の交通事故(以下「本件事故」という。)により、右腓骨骨折、左第七肋骨骨折、頭部外傷、前額部挫傷等の傷害を受けた。

事故の日時 平成六年七月一二日午前三時三〇分ころ

事故の場所 東京都品川区西五反田二―三二―七先交差点(通称大崎郵便局前交差点。以下「本件交差点」という。)

関係車両1 普通乗用自動車(品川三四ち八九九五。以下「西田車両」という。)

右運転者 被告西田

右同乗者 助手席 原告

後部座席 訴外東珠子(以下「東」という。)

関係車両2 普通乗用自動車(練馬五三つ五五八三。以下「篠原車両」という。)

右運転者 被告篠原

事故の態様 本件交差点を右折しようとした篠原車両と、対向直進してきた西田車両が衝突した。事故の詳細については、当事者間に争いがある。

2  原告の治療経過と後遺障害等級の事前認定等

(一) 原告は、本件事故による受傷の治療のため、第三北品川病院において、次のとおり治療を受けた。

平成六年七月一二日から同年八月一四日まで三四日間入院

平成六年八月一五日以降通院

(二) 原告は、平成八年五月一五日症状が固定し、平成九年五月二三日自賠責保険東京第一調査事務所により、自賠法施行令二条別表後遺障害別等級表(以下「後遺障害等級表」という。)一四級一〇号に該当するとの認定を受けた(甲一〇、乙一)。

3  被告篠原は、篠原車両を所有し、これを自己のために運行の用に供していた。

4  任意保険契約の締結等

訴外株式会社石坂善新堂(以下「石坂善新堂」という。)は、被告同和火災との間で、石坂善新堂を被保険者、西田車両を被保険自動車とする自動車保険契約を締結していた。右保険契約の約款中には、被保険自動車の事故により被害者が受けた損害について、許諾被保険者に対する判決の確定を条件として、被害者から被告同和火災に対する直接請求権が認められている(丙一、二、被告西田本人、弁論の全趣旨)。

5  損害の填補

原告は、西田車両及び篠原車両自賠責保険(二台分合計二四〇万円)、被告篠原の加入する任意保険から合計九四九万九〇〇五円の填補を受けた。

三  本件の争点

本件の争点は、本件事故の態様(被告らの責任)と原告の損害額である。

1  本件事故の態様(被告らの責任)

(一) 原告の主張

(1) 被告西田

被告西田は、前方不注視等の過失があるから、民法七〇九条に基づき、原告に生じた損害を賠償すべき責任がある。

(2) 被告篠原

被告篠原は、篠原車両の保有者であるから、自賠法三条本文に基づき、原告に生じた損害を賠償すべき責任がある。

(二) 被告西田、被告同和火災の主張(好意同乗減額)

被告西田は、本件事故の約一か月前に原告と知り合い、本件事故までの間に数回原告の勤務するクラブで会っていたところ、本件事故当日、原告とドライブの約束を行い、午前一時ころ、原告、東と待ち合わせ、その後、都内をドライブして、原告らを自宅まで送る途中、本件事故に遭ったものであるが、原告は、西田車両の助手席に乗車しながらシートベルトを着用していなかったものであるから、原告の損害額を算定するに当たっては、二〇パーセント程度の好意同乗減額をすべきである。

(三) 被告篠原の主張

(1) 免責

本件事故は、被告篠原が対面する信号機の青矢印信号の表示に従い、本件交差点に進入したところ、被告西田が対面信号機の赤色表示を無視して本件交差点に進入したため、発生したものであり、篠原車両に過失はなく、篠原車両に構造上の欠陥及び機能上の障害はなかったから、被告篠原は、自賠法三条但書により免責である。

(2) 過失相殺

仮に、被告篠原に何らかの過失があるとしても、原告は、被告西田が飲酒状態にあるのを知りながら、西田車両に同乗したものであり、この点に過失があるから、原告の損害額を算定するに当たっては、原告の右過失を斟酌すべきである。

2  原告の損害額

(一) 原告の主張

(1) 治療費 二四六万五六〇〇円

(2) 通院交通費 三万三六一〇円

(3) 入院雑費 四万四二〇〇円

原告は、本件事故により三四日間入院したものであり、入院雑費は、一日一三〇〇円とするのが相当であるから、三四日間で右金額となる。

(4) 休業損害 一五八三九万三三一〇円

原告は、本件事故当時、訴外株式会社ラ・ジョロナ(以下「ラ・ジョロナ」という。)の経営するクラブの雇われママとして稼働し、本件事故前三か月間に合計二五〇万九五〇〇円(一日当たり二万七八八三円)の収入を得ていたものであり、事故日の平成六年七月一二日から平成八年一月三一日までの五七〇日間の休業損害は、右金額となる。

(5) 逸失利益 六六五万一〇八五円

原告は、顔面に長さ約六センチメートルの線状瘢痕(外貌醜状)のほか、右足部に腫脹と頸部痛、頭痛等の自覚症状(神経症状)を残して、平成八年五月一五日症状固定(当時四〇歳)となり、外貌醜状については、後遺障害等級表一二級一二号に、神経症状については、同等級表の一四級一〇号にそれぞれ該当し(併合一二級)、一四パーセントの労働能力を喪失したものであるから、平成六年女子労働者学歴計全年齢平均収入額である三二四万四四〇〇円を基礎とし、二七年間の逸失利益の現価をライプニッツ方式により算定すると、前記金額となる。

(6) 慰謝料 四五〇万〇〇〇〇円

入通院慰謝料 一八〇万〇〇〇〇円

後遺障害慰謝料 二七〇万〇〇〇〇円

(7) 弁護士費用 一二〇万〇〇〇〇円

(二) 被告らの認否及び反論

原告の損害額、とりわけ休業期間の相当性、基礎金額のほか、逸失利益については、いずれも争う。

第三当裁判所の判断

一  本件事故の態様(被告らの責任)について

1  前記争いのない事実等に、丙一ないし三、被告西田本人、被告篠原本人、弁論の全趣旨を総合すれば、次の事実が認められる。

(一) 本件道路は、港区白金方面から品川区戸越方面に向かう首都高速二号線下の各片側四車線の道路(以下「甲道路」という。)と、目黒区大橋方面から品川区大崎方面に向かう山手通りが交差する、信号機により交通整理の行われている交差点である。

甲道路の対面信号機の表示は、一三〇秒サイクルであり、青色五二秒、黄色四秒、青色矢印一二秒、赤色六二秒(最後の三秒が全赤色)となっている。

甲道路の最高速度は、五〇キロメートル毎時に制限されている。

甲道路及び山手通りの路面は、いずれもアスファルトで舗装され、平坦であり、本件事故当時、乾燥していた。

甲道路の前方の見通しは、良好であるが、高速道路の橋脚があり、対向車線の見通しは、悪い。

(二) 西田車両は、訴外株式会社石坂善新堂(以下「石坂善新堂」という。)の所有する車両であったが、被告西田は、本件事故以前にも何度か石坂善新堂の代表者の娘の訴外石坂みかこ(以下「石坂」という。)から西田車両を借りて使用していた。

被告西田は、本件事故の一か月位前、知人を通じて原告と知り合いになり、本件事故の数日前、事故当日の平成六年七月一二日に原告と会って、駒沢公園等に行く約束をしていた。

被告西田は、本件事故前日の平成六年七月一一日午後八時過ぎころ、石坂が被告西田の当時の自宅まで西田車両を持ってきてくれたため、これを借り受け、西田車両を運転し、原告と待ち合わせをしていた原告の当時の勤務先に行き、原告を西田車両の助手席に、その場に居合わせた東を後部座席に同乗させ、その後、駒沢公園に行った後、銀座で食事をする等して、本件事故当時は、六本木から大田区中央の当時の原告の自宅に向かう途中であった。

被告西田は、本件事故当時、本件交差点の甲道路は、よく通っており、道路状況は、よく知っていた。

被告西田は、本件事故当時、西田車両を運転し、時速約五〇ないし七〇キロメートルで本件交差点の甲道路の第三車線を進行し、本件交差点に進入したところ、右手に篠原車両が迫ってくるのに気づき、危険を感じて咄嗟に左に転把したが、急制動等の措置をとる間もなく、本件事故に遭った。

被告西田は、本件交差点に進入する際の対面信号機の表示は、わからなかった。

本件事故により、西田車両は、車体左前部のほか、右側面部が損傷した。

(三) 被告篠原は、本件事故当時、群馬県高崎市内に居住しており、本件事故日の平成六年七月一二日豊島区高田の実家に戻るため、仮眠を取った後、午前一時ころ、篠原車両を運転し、同僚を同乗させて、高崎を出発し、午前三時ころ、同僚を品川区戸越で降ろし、一人で実家に向かう途中であった。

被告篠原は、本件交差点の甲道路は初めて通る道路であり、道順に不安を感じて方向指示の看板に従いながら、時速約三〇ないし四〇キロメートルで本件交差点の第四車線(右折レーン)に進入し、さらに減速しながら山手通りに向かい、右折を開始したところ、本件事故に遭い、反転して山手通りのガードレールと衝突した。

甲道路の篠原進行方向の前後には、第四車線を含めて、進行中の車両はいなかった。

被告篠原は、甲道路の対向直進車両には気づかず、対面信号機が赤色を表示しているのもわからなかった。

本件事故により、篠原車両は、左斜め前方から衝突を受け、フロントバンパー、フード、左フロントフェンダー等が損傷した。

被告篠原は、本件事故による賠償については、任意保険会社である訴外三井海上火災保険株式会社(以下「三井海上」という。)に一任しており、原告に対する対人賠償のほか、ガードパイプの対物賠償等も三井海上に支払ってもらったが、三井海上に対し、格別異議は述べなかった。

(四) 本件事故の目撃者の存在及び本件事故当時の被告西田の飲酒の事実を認めるに足りる的確な証拠はない。また、本件交差点内における衝突場所を特定すべき証拠もない。

被告篠原は、丙三の記載が具体的であること等を理由にして、被告篠原の供述が信用できると主張するもののようであるが、前認定のとおり、被告篠原は、本件交差点を初めて通行するのであり、対面信号機の表示を含めて、交差点内の状況を注意しているのが通常であると思われるにもかかわらず、本件交差点を右折するに当たり、対面信号機の表示だけは明確に記憶しているとしながら、対向車両の存在に全く気づいていない等やや不自然な供述が含まれている上、丙三の記載がことさら西田の供述に比較して信用できるとするに足りる情況的保証はないというべきであるから、これを採用することはできない。

2  右の事実をもとにして、本件事故の態様について検討するに、本件事故は、信号機により交通整理の行われている交差点における、右折車両と対向直進車両の事故であるが、双方の車両運転者の対面信号機の表示に関する主張が対立しているところ、前記のとおり、本件事故の目撃者はなく、被告篠原の供述が被告西田の供述に優越することを認めるに足りる的確な証拠はないが、被告西田は、前認定の事実によれば、本件交差点に進入するに当たり、制限速度を上回る速度で進行しているほか、前方注視を欠いており、この点に過失があることは否定できない。

他方、被告篠原としても、本件交差点が比較的大きな交差点であるのにもかかわらず、同所を右折するに当たり、対向車両の存在に気づいておらず、この点に前方確認を怠った過失があるというべきである。

そうすると、被告西田は、民法七〇九条に基づき、被害者に対し、本件事故により原告に生じた損害を賠償すべき責任がある。その一方で、被告篠原は、自賠法三条本文に基づき、原告に生じた損害を賠償すべき責任がある。

すなわち、被告西田、被告篠原のいずれについても、共同不法行為者としての責任を免れない。

二  原告の主な治療経過等

1  前記争いのない事実等に、甲二の1ないし4、三の1、2、四の1ないし64、五の1ないし9、一〇、一一の1、2、一三、一四の1、一五の1、一六、一七、乙一、四、弁論の全趣旨を総合すれば、次の事実が認められる。

(一) 原告は、本件事故の衝撃により頭部が西田車両のフロントガラスと衝突して意識を失い、救急搬送され、第三北品川病院を受診し、右腓骨骨折、左第七肋骨骨折、胸部打撲、頭部外傷、前額部挫創、頸部打撲と診断され、大腿部から足に掛けての骨折部にギプスシーネ固定の上、消炎鎮痛処置と投薬を受け、平成六年七月一二日から同年八月一四日までの三四日間入院し、同日軽快したとして退院となり、引き続き同病院に通院しながら関節可動域制限に対するリハビリ治療を受けた(その間、原告は、本国のポルトガルにおいて平成七年四月及び五月中に医師の診察を受けたが、具体的な診療内容を示す証拠はない。)。

原告の第三北品川病院への通院頻度は、次のとおりである。

平成六年八月 七日

同年九月 なし

同年一〇月 七日

同年一一月 一九日

同年一二月 八日

平成七年一月 一〇日

同年二月 一四日

同年三月 七日

同年四月 四日

同年五月 七日

同年六月 一〇日

同年七月 一〇日

同年八月 二日

同年九月 三日

同年一〇月 一日

同年一一月 一日

同年一二月 二日

平成八年一月 一日

同年二月ないし四月 なし

同年五月 三日

(二) 土田義隆医師(以下「土田医師」という。)作成の平成七年九月一日付け診断書には、原告は、頸部痛、頭痛等で就業できず、来院している。

同年九月一二日 病名としては、バレリュー症候群の追加を行いたい、との記載がある。

また、土田医師作成の平成八年五月一七日付け後遺障害診断書(甲一〇)には、次の記載があるが、神経学的異常所見を示す記載はない。

傷病名 右腓骨骨折、前額部挫創、左第八肋骨骨折、頭部外傷、左膝、下腿部打撲、バレリュー症候群

自覚症状 頸部痛、頭痛、めまい、耳痛、右腰痛、右足部痛、右下肢のシビレ、正座等ができない、悪心もある。夜間不眠、その他別紙

「その他別紙」には、平成七年九月二一日付け「自覚症状について」として、原告の首から後頭部にかけての強い痛み、しびれのほか、目のちかちか感、吐気等の記載がある(原告の氏名の記載がある。)。

他覚症状及び検査結果 顔面に約六センチメートルの線状瘢痕があり、右足部の腫張がある。

(三) 原告は、平成九年五月二三日自賠責保険東京第一調査事務所により後遺障害等級表一四級一〇号に該当するとの認定を受けた。

2  右によれば、原告の症状については、次のように考えることができる。

原告は、本件事故により頭部に傷害を受けたが、当初から神経学的な異常所見は認められず、第三北品川病院退院時、左腓骨骨折部位についてはほぼ軽快しており、退院後リハビリ通院等を行ったが、平成七年八月以降一か月二、三回程度の通院をするにとどまり、同年九月中にはバレリュー症候群との診断名も付加されるに至っており、その後、症状固定の診断は、平成八年五月になされているものの、その間、さしたる症状の推移もないほか、格別従前と異なる内容の加療もされていないことが窺われる。

そうすると、原告は、本件事故後一年六か月を経過し、第三北品川病院においてバレリュー症候群との診断名が加わってからも概ね三か月を経過した、平成七年一二月末日には、症状が固定していたものと認めるのが相当である。

そして、原告の神経症状については、これを説明するに足りる明確な他覚所見がないことからすると、自賠責保険における後遺障害の事前認定と同様、後遺障害等級表一四級一〇号に該当するものと認めるのが相当である。

なお、これとは別に、原告の顔面には長さ約六センチメートルの線状瘢痕が認められるが、これは右障害の部位長さによれば、後遺障害等級表一二級一四号に該当するものと認められる。

三  原告の損害額

1  治療費 二一八万三〇八〇円

甲三の1、2、四の1ないし64によれば、平成七年一二月までの治療費として右金額が認められるが、右を超える分については、前記二2の点からも、これを被告らに負担させることを相当とするに足りる証拠はない(なお、本邦における分とは別にポルトガル本国における治療の必要性を認めるに足りる的確な証拠はない。)。

2  通院交通費 二九〇〇円

甲六の1、3によれば、右の金額が認められ(甲六の2については、対応する受診日がない。)、右を超える分については、これを認めるに足りる証拠がない。

3  入院雑費 四万四二〇〇円

甲二の2、3によれば、原告は、平成六年七月一二日から同年八月一四日までの三四日間入院したことが認められ、入院雑費は、一日当たり一三〇〇円と認めるのが相当であるから、三四日間で右金額となる。

4  休業損害 四五六万九三一一円

甲一六、一七、弁論の全趣旨によれば、原告は、本件事故当時(三九歳)、ラ・ジョロナの経営するクラブの雇われママとして勤務していたところ、本件事故により休業を余儀なくされたものであるが、原告の本件事故以前の収入を証するに足りる客観的証拠はないから(原告は、ラ・ジョロナとの間で、クラブの売上金の五パーセントを歩合給として取得する内容の契約を締結していたと主張するが、甲八は本件事故後に作成されたものであり、直ちに採用できない。)、原告の基礎収入としては、賃金センサス平成六年女子労働者学歴計三五歳ないし三九歳の平均収入額である三六一万四〇〇〇円(一日当たり九九〇一円。一円未満切捨て)を使用するのが相当である。

そして、原告は、前記二の治療経過等に照らすと、事故日から平成七年七月末までの三八五日間は、完全な就労をすることは困難であったと認められるが、その後の一五三日間については、原告の通院実態に照らしても、概ね五〇パーセントの就労が可能であったものと解することができる。

すると、原告の事故日から平成七年一二月末日までの休業損害は、次式のとおり、四五六万九三一一円となる。

9,901円×385日=3,811,885円

9,901円×153日×0.5=757,426円(一円未満切捨て)

3,811,885円+64,356円=4,569,311円

5  逸失利益 一〇五万一二八三円

前記二2記載のところに、甲一〇、乙一によれば、原告は、平成七年一二月末日ころ後遺障害等級表一四級一〇号の神経症状を残して症状が固定したものであり(当時四〇歳)、他覚的所見の認められない後遺障害等級表一四級一〇号の頭痛、頸部痛については、労働能力喪失期間を七年間とするのが相当であるから、賃金センサス平成七年女子労働者学歴計四〇歳ないし四四歳の平均収入である三六三万三七〇〇円を基礎として、ライプニッツ方式により七年間の逸失利益の現価を算定すると、次式のとおり、一〇五万一二八三円(一円未満切捨て)となる。

3,633,700円×0.05×5.7863=1,051,283円

なお、原告には、前二2のとおり、外貌醜状の後遺障害が認められるが、この点が原告の労働能力の喪失をもたらすことを認めるに足りる的確な証拠はないから、これを前提とする逸失利益は、認められない。

6  慰謝料 四五〇万〇〇〇〇円

原告の傷害の部位程度、入通院期間、後遺障害の内容程度、その他本件に顕れた一切の事情を総合斟酌すると、原告の慰謝料としては、入通院慰謝料として一八〇万円、後遺障害慰謝料として二七〇万円とするのが相当である。

7  右合計額 一二三五万〇七七四円

四  過失相殺ないし好意同乗減額について

原告が西田車両に同乗した経緯は、前記一認定のとおりであり、原告がシートベルトを着用していたかどうかについての被告西田の供述はあいまいであり、また、被告西田本人によれば、被告西田が飲酒した事実はないのであるから、右各事実によれば、原告の損害額から過失相殺ないし好意同乗減額により減ずべき事情はなく、この点の被告らの主張は、いずれも理由がない。

五  損害の填補

原告が自賠責保険及び任意保険から合計九四九万九〇〇五円の填補を受けたことは、当事者間に争いがなく、さらに乙二、三によれば、原告は、被告西田から二〇万円の填補を受けたことが認められるから、右填補後の原告の損害額は、二六五万一七六九円となる。

なお、原告は、被告篠原の任意保険会社である三井海上との間で、休業損害のみに充当する旨の合意をしたから、原告が休業損害名目で受領した金員は、その他の費目との関係で損害填補にならないと主張するもののようであるが、原告と三井海上との間の右合意の存在を認めるに足りる証拠はなく、原告の右主張は、採用できない。

六  弁護士費用

本件事案の内容、審理経過及び認容額、その他諸般の事情を総合すると、原告の本件訴訟追行に要した弁護士費用としては、二〇万円と認めるのが相当である。

七  認容額 二八五万一七六九円

第四結語

右によれば、原告の本件請求は、被告西田、同篠原につき、各自、二八五万一七六九円、及びこれに対する本件事故の日である平成六年七月一二日から各支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を、被告同和火災につき、原告の被告西田に対する本判決が確定することを条件として、二八五万一七六九円及びこれに対する本件事故の日である平成六年七月一二日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金を、それぞれ求める限度で理由があるが、その余はいずれも理由がないから棄却することとし、主文のとおり判決する。

(裁判官 河田泰常)

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